著書「マンボウのひみつ」の解説

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【執筆者 澤井悦郎

「澤井悦郎.2017.『マンボウのひみつ』.岩波書店.東京,208pp.」は、運営者が初めて執筆した中学生(以上)向けの一般書である。

マンボウを題材に使った書籍はそれまでもいくつかあったが本の一部の項目か創作ものばかりで、マンボウの知見を学術的に幅広くまとめた今世紀の書籍はなく、前回出版されたのは江戸時代にまで遡る。

約200年ぶりに発売された平成最初で最後のマンボウ本となった。

目次

執筆のきっかけ~発売するまで

2014年8月に開かれた博物系グッズ即売会「第1回博物ふぇすてぃばる!」にサークル出展したことが本書執筆のきっかけだった(この時、表紙絵を描くことになるツク之助さんはたまたま隣のサークルだった)。

お客さんの中に岩波書店の編集者の方がいた。私の同人誌を見て、「マンボウの本を作りませんか?」と声を掛けていただいた。

イベント参加者の中にはその道のプロが潜んでいることがあるので侮れない。しかし、この時は本を作る部署にはいないとのことで、「いつか本を作れる部署に移ったら声をお掛けします」とのことで連絡先を交換して話は終わった。

2015年8月、「第2回博物ふぇすてぃばる!」に出展した時もその編集者は私のサークルに遊びに来た。

そして、「本を作れる部署に移りました!」との話だったので、想像以上に早くマンボウ本作成のプロジェクトが始まった。

声は掛けたものの、本は会社内で何回か会議して企画が通らないと出版できないとの話だったが、私は一度マンボウの知見を自分なりにまとめてみたいと思っていた。

ちょうど博士号を取得して、1年間給料をもらいながら自由にマンボウ研究ができるポスドクになったタイミングだったので、勝手に自分で本の内容を書いた。

編集者の希望していた文字数を遥かに上回る原稿を書いてしまったため、発売時には少し削ることになった。お蔵入りした内容はいつか別の本で紹介したい。

2016年、無事会社内で企画が通ったとのことで、マンボウ本の出版に向けて本格的に動き出した。

何度も編集者と会って本の内容を詰めていった。知り合いの研究者に本の専門的な内容も確認してもらった。

一方、私は私でポスドク期間が終わり、無職になり、知り合いの伝手(つて)で働き始めると転々として慌ただしかった。

2017年。私の書きたい内容はほぼできていたので、編集者と相談して原稿を編集して完成させていく作業に入った。

働きながら本の編集を進めるのはなかなか大変だったが、絶対に1冊は本を出版したいと頑張った。

この時、博士論文のメインであるウシマンボウの学名を特定する論文、カクレマンボウを新種発表する論文の論文化も並行して進めていたので、大変だった。

しかし、2017年8月22日に無事、本が出版できたのである。Twitterではしゃぎ回ったのを覚えている。

残念なことに、本の発売日に私は尿路結石の手術で入院していたため、本屋に並んでいる自分の本を見ることはできなかったが、入院中に家族が本を届けてくれて、本が出版されたことを確認した。

2020年7月現在、発売から3年が経ち、一般の人が手に取ってくれることも少なくなった。

9,000部は突破しているとの話は聞いており、夢の1万部突破まであと少し。

是非、まだ買っていない方は「マンボウのひみつ」を買って読んでほしい(イベントに持ってきてくれたらサインを書きます)!

本の内容

「買って読んでほしい」とは言ったものの、どんな内容なのかを知らなければ読む気も起きないことだろう。

本書の各章各節は以下のとおりである。

はじめに

マンボウ図鑑/マンボウなんでも博物館/マンボウ料理

I 体のつくりを徹底解剖

1 マンボウが魚であることの証明/2 マンボウのかたち/3 マンボウの解剖(内部形態)

○トピック 1 魚の絵や写真はなぜ左向き?/2 魚の模様と方向/3 魚の計測/4 どっちが雄でどっちが雌?

II 化石もあるマンボウの仲間

1 「マンボウの何が知りたい?」アンケート/2 種と分類/3 和名と学名/4 現生種と化石種/5 現在も存在する種/6 現在は存在しない種/7 マンボウはフグの仲間/8 フグはどうやってマンボウに進化した?

○トピック 5 沖縄にいる赤いマンボウとは?

III ウシマンボウの謎

1 ずっとマンボウが好きだった/2 分類の世界的基準/3 マンボウ研究は難しい/4 広島大学初代マンボウ研究者の時代/5 二代目の時代/6 三代目の時代

○トピック 6 生き残った個体

IV バイオロギングが暴く生態の謎

1 可能性のツール「バイオロギング」/2 疑問を持つことから研究は始まる/3 浮力はどこから得ているのか?/4 尾鰭なしでどうやって泳いでいるのか?/5 「のろまなマンボウ」は本当か?/6 東日本大震災に負けない/7 バイオロギングが解き明かした謎/8 昼寝の謎/9 回避の謎

○トピック 7 分類屋vs.生態屋/8 魚も寝る

V みんな気になる生態の最新情報

1 天敵・捕食者/2 摂餌・食性/3 寄生と共生/4 分布域/5 成長過程/6 成熟・産卵/7 視野・視力/8 重さ・長さ

○トピック 9 鰓に入り込むコバンザメ

VI マンボウと人がつむいできた歴史

1 マンボウ塚/2 人類最古のマンボウの記述と絵/3 学名の語源/4 日本最古の記述と絵/5 「マンボウ」という名が全国普及した理由/6 和名の語源と命名者/7 水族館の挑戦/8 変わりゆくイメージ/9 絶滅危惧種指定/10 食材としての歴史と可食部位/11 食卓のマンボウ/12 毒はあるのか? 薬効は?/13 漁獲方法と数え方

○トピック 10 マンボウの地方名/11 町のシンボル

Ⅶ マンボウの民俗今昔―伝承から都市伝説まで

1 夜に光り輝く?/2 禁忌/3 大漁祈願/4 魚をいやす海の医者/5 おぼれた人を助ける/6 死ぬ瞬間に目を閉じる/7 切り身は一晩放置すると水になって消える/8 死因にまつわる都市伝説/9 三億個産み生き残るのは二匹/10 ライフル銃でも貫通しない?――皮膚は弱いのか?

○トピック 12 マンボウを研究するには?

おわりに

マンボウが見られる水族館/図版出典・提供/参考文献

岩波書店のホームページでは試し読みのコーナーがあるので、気になった方が是非見てから検討してほしい。

本のこだわり

本書はいろいろこだわりを込めて作った本なので、そのこだわりポイントを著者自ら紹介する。

1.表紙絵

本のカバーをめくった部分にも解説を書いているが、マンボウ類と実際に関連する生物が描かれている。本書はウシマンボウが主役なので、〝マンボウ〟よりも大きく描いてもらった。

ウシマンボウの背鰭基部に付いている黒い線状のものはマグロヒジキムシという寄生虫で、体にくっついている魚はクロコバンというコバンザメの仲間。

周りに群れている魚達は、オトメベラ、タテジマキンチャクダイ、ミゾレチョウチョウウオ、ムレハタタテダイでウシマンボウの外部寄生虫を食べる掃除魚だ。

2.体の名称

魚図鑑や論文でもここまで詳しく外部形態、内部形態ともにマンボウの名称を記したものはなかなかないのではなかろうか。第1章を見れば、おおまかなマンボウの体の仕組みを知ることができる。

これら体各部の名称は一般的な魚類の名称に合わせるため、「木村清志(監修).2010.『新魚類解剖図鑑』.緑書房.」を参照した。

3.マンボウ属の再分類の流れとウシマンボウ発見エピソード

DNA解析が行われるようになり、マンボウ属に謎の存在が見つかった。

本書では私が所属していた広島大学での研究室で発見したウシマンボウについて、大学院生が3代にわたって研究を引き継ぎながらその謎に迫っていく過程が描かれている。いわゆる研究の裏話で、本書の一番の見どころだ。

本書ではマンボウ属3種(〝マンボウ〟、ウシマンボウ、カクレマンボウ)の学名が未特定で終わっており、その後の話は2冊目の著書『マンボウは上を向いてねむるのか: マンボウ博士の水族館レポート』に引き継がれている。

逆に言えば、マンボウ属3種の学名が未特定だった時代を示す数少ない書物として本書は貴重である。

4.伝承や都市伝説

生物系の本はあまり民俗学的なことは取り上げないように思う。

本書では、古い文献から見付けた伝承や、近年インターネット上で流布している都市伝説も取り上げた。特にマンボウの死因にまつわる都市伝説はその流行から終焉までを記録した。

これは現代民俗の1つとして、未来の研究者の貴重な資料になると思われる。

5.トピックの背景と川柳

各章のところどころにトピックというこぼれ話も収録している。

トピックの上にあるマンボウのシルエットが吐く泡は1つ1つ全部違って同じパターンはない。最後は空に飛び立っていく。デザイナーの隠れたこだわりポイントである。

日本人が書く本なので日本らしい要素を入れようと考えて思い付いたのが川柳である。各節の内容を短くまとめているので、要点のおさらいもできる(と思う)。

最後の川柳が色紙になっているのもデザイナーの隠れたこだわりポイントである。

6.マンボウに縁があるゲスト

本の帯はさかなクン。

さかなクンは日本魚類学会で話をしたことがある縁で帯を描いていただいた。

星のカービィのカイン、どくとるマンボウこと北杜夫、マンボウの死因を予期せず増やしてしまったイラストレーターのサッカン、家の裏でマンボウが死んでるP(竜宮ツカサ)の描く初音ミクなど、知る人ぞ知る有名人ともこっそりコラボした。

7.文献としての利用

一般書では一般的に本に使用したソースとなる文献は載せないらしい。しかし、それでは本に書かれてることの大元のソースが辿れないので困る。

そこで本書では参考文献のコーナーを設けた。しかし、ページ数の都合上、すべての参考文献は載せることができなかったため、それらは個人的なサイトの方に文献リストを載せることにした。

せっかく本を書くのだから、文献としても引用できるようにしようと思って、論文にはならないけど面白い情報を盛り込んだ。また、海外論文でも引用できるように本書の英文表記も巻末に密かに載せている。

本書の英文引用形式は「Sawai E. 2017. The mystery of ocean sunfishes. Iwanami Shoten Publishers. Tokyo, 208 pp.」である。

韓国語版

2018年、本書が全部韓国語化された本が韓国で販売された「사와이 에쓰로.2018.이김 비밀시리즈 ① 개복치의 비밀(역자 : 조민정).도서출판 이김,서울시,192pp.」。表紙絵(ラメ加工)も一新され、かなりゆるい感じなっている。

まさか自分の本が海外で翻訳されて売られる日が来ようとは思っていなかったので非常に嬉しい。面白いのが川柳まで韓国語に翻訳されていることである。ちなみに私は韓国語を全く読めない。

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更新履歴
  • 記事上部に広告の表示を掲載(2023年9月21日)
  • サイトデザインの一新に伴いリライト(2023年6月17日)
  • 更新履歴の表示方法をアコーディオンボックスの仕様を変更(2021年6月27日)

作成日:2020年7月8日 更新日:2023年9月21日

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