【執筆者 澤井悦郎】
「澤井悦郎.2019.『マンボウは上を向いてねむるのか: マンボウ博士の水族館レポート』.ポプラ社.東京,207pp.」は運営者が執筆した小学生4年生(以上)向けの2作目の一般書である。
前回出版されたのは『マンボウのひみつ』は平成最後であったため、本書は令和最初のマンボウ本となった。
執筆のきっかけ~発売するまで
2016年10月、自然科学系の企画・編集会社から「『最強の生物(ポプラディア大図鑑WONDAアドベンチャー)』という図鑑を作るためにマンボウの写真をお借りしたい」というメールが来た。
私は最初、出版社と思って対応したのだが、出版社とは別で本の編集を専門する、執筆者と出版社を仲介する会社であることが後にわかった。
本の一部のマンボウのコーナーの話であるが、せっかくだから最新の知見を普及したいと思い、いろいろメールをやりとりしているうちに、マンボウの解説も監修することになった。
2017年、『最強の生物』のことでやりとりしていた中で、「マンボウ本を作ってはどうか?」という話をいただく。ちょうど『マンボウのひみつ』の編集途中であったが、2作目も書けるなら書きたいと思ってOKを出した。
2作目は自力で全部書いてみようと考えていた。今度は小学生向けの本を提案されたのだが、出された企画内容が『マンボウのひみつ』と被っている部分が多かった。
似たような内容の本を量産するのは嫌だったので、水族館とマンボウをテーマにした本にしたいと強く提案した。
岩波書店の時と違い、最初、編集会社と出版社と私の三者が連携して本を作成するという形だったが、最終的に編集会社の方が出版社を紹介して引き、私と出版社で本を進めていくという形になった。
編集会社はいくつか仲介する出版社を挙げていたが、最終的にポプラ社を紹介していただく形となった。
ポプラ社内でも何度か会議を行い、企画が通らないと出版できないとの話だったが、見立てとして、企画がスムーズにいけば2018年10月ごろに出版できたらいいなという話だった。
結果としてこの年は『マンボウのひみつ』関連の企画がいろいろあったので、結局執筆は開始しなかった。
2018年6月、しばらく何の音沙汰もなかったが、本の企画が本格的に動き出した。この時点で2019年4月頃を出版の目標とすることになった。
原稿の第一案を提出するまで5ヶ月しかない。仕事をしながら本を書くことができるのか?という自分への挑戦でもあった。
水族館をテーマとすることもあって、水族館でのマンボウの行動観察にも力を入れた。何とか目標通り、原稿を仕上げることができた。
この時点で、イラストは竜宮ツカサ、帯は中川翔子(以下しょこたん)で希望を出していた(敬称略)。
2019年、二転三転あって、出版日が延期され、本当に出版できるのかとやや不安に思いつつも、原稿は少しずつ完成に近付いていった。
元号が令和に変わった5月1日も私は出版社に出向き、原稿の確認や修正作業を行っていた。そして、2019年10月18日、無事本は出版された。
2020年7月現在、発売から9ヶ月が経った。本の発売記念にいろいろイベントをする予定だったが、新型コロナウイルスの影響ですっかり流れてしまった。
Amazonでもなぜか魚類学のカテゴリーに入れてもらえず、本屋でも児童書コーナーに置かれるため、一般の人が手に取る機会は少ない。
現在どのくらいの部数が売れたのかは不明だが、まだ重版の連絡は来ていない。
子供向けの本にしては学術的にマンボウにかなり詳しい本になっているので、是非、興味を持って下さった方は買って読んでほしい(イベントに持ってきてくれたらサインを書きます)!
本の内容
「買って読んでほしい」とは言ったものの、どんな内容なのかを知らなければ読む気も起きないことだろう。
本書の各章各節は以下のとおりである。
はじめに
本のきまり
第1章 わたしがマンボウ博士になるまで
- 変わり者の少年
- マンボウ研究の道へ
- マンボウ研究は分類から
- 新しいサンプルを集め、古い研究を見直す
- 記録は未来へのメッセージ
- マンボウこぼれ話(1)さかなクンとわたし
第2章 カクレマンボウを公表せよ
- 第3のマンボウを求めて
- はじめてのニュージーランド生活
- カクレマンボウの正体をあばけ!
- 標本登録も一苦労
- ついにカクレマンボウを公表
第3章 マンボウ属は3種いる
- 変わり者のマンボウ
- マンボウのなかまと舵びれの形
- 見分ける特徴「分類形質」
- マンボウの赤ちゃんを見分けられるか?
- カクレマンボウとウシマンボウ
- ゴウシュウマンボウはウシマンボウだった
- まちがいを正して歴史をつくる
- 世界でいちばん重い硬骨魚、ウシマンボウ
- マンボウ属3種はどの海にいる?
- 3種で好みの水温がちがう
- マンボウこぼれ話(2)新種を見つけること
第4章 水族館は「生きた博物館」
- 水族館は研究の宝庫
- 水族館160年の歴史
- 進歩する飼育の技術
- 知られていない、水族館の役割
- ものすごくいそがしい飼育員
- マンボウをプールで飼った施設
- マンボウこぼれ話(3)東日本大震災とマンボウ
第5章 マンボウ飼いたいんですけど
- どうやったらマンボウを飼育できるのか?
- マンボウをつかまえる
- 傷つけないよう慎重に
- 大きくて丸い水槽
- マンボウのえさ
- 水槽に入れる水
- 1つの水槽に何個体飼えるのか?
- 水の流れる速さ
- 飼育下のマンボウは早く大きくなる?
- マンボウは飼育下でどこまで大きくなるか
- マンボウを壁にぶつけるな
- マンボウにはつきもの、寄生虫
- トレーニングでストレスをへらす
第6章 水族館で、新しいマンボウ研究が始まった
- 水族館の挑戦
- マンボウの生態研究を進めた水族館
- 市民科学者とともに
- 水族館は実験水槽
- ひれの動きと役割
- 体の色を変えるマンボウ
- 見られたらラッキー、加速とジャンプ
- マンボウの鼻上げ行動
- マンボウの眼の閉じ方を観察する
- 体の姿勢はいろいろ
- 壁ぶつかり行動も見られた
- 泳ぐ方向は水槽による?
- マンボウの排出行動
- えさを食べる・息を吸う
第7章 マンボウは上を向いてねむるのか
- 魚はどうやってねむるのか
- 新たな調査方法を考える
- サンシャイン水族館の飼育環境
- マンボウのうわさが聞こえてくる
- 試練の24時間観察
- 成長すると行動が変わる?
- 成長すると種を見分けやすくなる
- マンボウは…上を向いてねむる?
- 突然、研究が終わった
おわりに
あとがき
スペシャルサンクス
参考文献(一部)
ポプラ社のホームページでは試し読みのコーナーがあるので、気になった方は是非見てから検討してほしい。
本のこだわり
本書のこだわりポイントを著者自ら紹介する。
1.表紙絵
本書は水族館がテーマなので、表紙も水族館で飼育されているマンボウを描いてもらった。日本の水族館でみられるマンボウ科の種は〝マンボウMola mola〟しかいないので、表紙絵も〝マンボウ〟である。
マンボウの周りで泳いでいる魚は、カタクチイワシ、シラコダイ、シマフグで、〝マンボウ〟と同じ水槽で混泳されたことがある魚類だ。
マンボウ博士のモデルは私であるが、実際、私はほとんど白衣を着ない。
2.カクレマンボウを新種発表するまでの道のり
前作『マンボウのひみつ』ではC種としていた種は研究が進んで、カクレマンボウと名が付いた。
新種を発表するにはどんな過程が必要なのか?ということと合わせてカクレマンボウ公表までの裏話を書いた。
3.ギネス世界記録の更新
今まで世界最重量硬骨魚は〝マンボウ〟とされていたが、私の研究でウシマンボウと間違われていたことが明らかとなった。
世界最重量硬骨魚の種が更新された歴史的瞬間とその理由を解説している。
4.博物館と水族館と死と生
水族館は娯楽施設のイメージが強いが実は研究・教育施設でもあり、博物館の一種であるという、あまり浸透していない水族館学的な楽しみ方を紹介した。
また、基本的に博物館では死んだ標本しか観察できないが、水族館では生きた標本を観察でき、死んだものも生きているものも両方を観察することの重要性を説いた。
5.マンボウの飼育方法と行動観察
水族館でマンボウを見ても、それがどんな環境で飼われているのかはわからないので、飼育の裏側を解説。また、私の実際の観察体験を通じて、水族館で見ることができるマンボウの行動を幅広く紹介した。
6.市民科学者
従来はアマチュア研究者などと呼ばれていたが、現在は市民科学者と呼ばれている。
研究機関に所属せずとも、科学的手法を知っていれば研究をすることができ、論文として公表することもできるということを解説した。
7.マンボウに縁があるゲスト
本の帯はしょこたん。
しょこたんはラジオ『リミックスZ』で共演したことがある縁で帯を書いていただいた(2010年2月22日放送の「飛び出せ!科学くん」でマンボウの稚魚標本を探し出した縁もある)。
本の表紙絵をはじめとする多くのイラストは前作の縁から竜宮ツカサさんに描いていただいた。
さかなクン、上皇陛下、魔法陣グルグルの勇者ニケなど、知る人ぞ知る有名人ともこっそりコラボした。
8.パラパラ漫画
いくつかのページの下に描かれているマンボウの絵が、高速でページめくりすると、手前から奥に泳いでいくと隠し要素があったが、気付いた人はいただろうか?
全ページでできたら良かったのだが、できなかった。
9.文献としての利用
前作同様に海外論文でも引用できるように、本書の英文表記も巻末に密かに載せている。
本書の英文引用形式は「Sawai E. 2019. Rearing and research of ocean sunfishes in aquariums in Japan. Poplar Publishing, Tokyo, 207 pp.」である。
なお、本書もページ数の都合で参考文献は本には一部しか載せられなかったが、本書の公式サイトで全参考文献をリストをダウンロードできる(ダウンロード先はこちら)。
訂正箇所
本書では「間違いがあれば指摘してほしい」とあとがきに書いていたのだが、本当に間違っていた箇所があったのでお詫び申し上げる(正誤表(2020年8月更新)はこちら)。
その部分を参考にした論文著者からの指摘で、本書115ページにある「マンボウの体温はまわりの海水より1~2℃高い」という一文は間違いで、「マンボウの平均体温はまわりの海水より平均1~2℃高い」が正しい。
これは私の思い込みと論文の誤読が原因で、「基本的にマンボウの体温はまわりの水温とほぼ同じ」だが、急激に深海に潜った時、マンボウの体温は「遅れて冷える」性質があるため、周りの水温とマンボウの体温に差が開き、その差の影響で取ったデータの体温の平均値と周りの水温の平均値を比較すると、体温の方が周りの水温より平均1~2℃高くなる、というのが正確な知見である。
少し文章を変えるかもしれないが、この一文を重版時に訂正する予定である。
2021年6月、訂正箇所をもう1つ自分で見つけてしまった。 本書69ページにある「1908年7月」は間違いで、「1908年9月」が正しい。
この部分も重版時に訂正する予定である。
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更新履歴
- 記事上部に広告の表示を掲載(2023年9月21日)
- サイトのデザイン一新に伴いリライト(2023年6月17日)
- 更新履歴の表示方法をアコーディオンボックスの仕様を変更(2021年6月27日)
- 「訂正箇所」に2つ目の訂正箇所を追加(2021年6月5日)
- 更新履歴の表示方法をアコーディオン形式に変更(2021年3月25日)
- 訂正箇所に正誤表を追加(2020年8月10日)
作成日:2020年7月8日 更新日:2023年9月21日