「探偵!ナイトスクープ」経由で再現されたマンボウの軟骨ボールの民俗

【執筆者 澤井悦郎・ヨシモラ】

昔の人が編み出した伝統技術は現在失われつつある。それは人とマンボウとの関わりを示す民俗学的な伝承も同じである。

「記憶より記録」は科学者のモットーであり、ローカルな伝承は何らかの書誌媒体に記録しておかないとすぐに失われてしまう。

今回、『探偵!ナイトスクープ』経由で知ることとなった「マンボウの軟骨ボール」に関する民俗について、当館メンバーのヨシモラとともに論文(澤井・吉原,2020)を出版した。『探偵!ナイトスクープ』の1コーナーが学術論文になったという意味不明な事実を是非多くの人に広めて欲しい。

本論文はwithnewsに取り上げていただいたが、ここではまた違った視点から本論文を解説したい。

目次

研究のきっかけ

2019年、『探偵!ナイトスクープ』から第一著者である私にマンボウに関する取材依頼が来た。

私は『タモリ倶楽部』などいくつかテレビ取材を受けたことがあり、今回もマンボウの都市伝説など一般受けするネタの解説をするいつものパターンかなと何となく思って依頼文を読んでいたのだが、だんだんおかしなことに気付いた。

「マンボウの軟骨で作ったボールがスーパーボールのように跳ねるか検証して欲しい」という感じのことが書かれていた。意味がわからず、メールを三度見くらいした。マンボウに関する文献はかなりたくさん読んできたつもりだったが、そんな話は見たことも聞いたこともない。

番組とやり取りをする中で、一昔前の九州の漁村の子供達がそういう遊びをしていたということがわかった。番組は検証する気満々だったので、私も便乗して検証結果を論文にしたいと考えた。おそらく、番組側も依頼した人物から依頼したネタを研究に使いたいから協力して欲しいと言われるとは思ってもみなかったことだろう。

しかし、検証には1つ大きな問題があった。私は今、保存場所がないのでマンボウの魚体丸ごとのサンプルは集めていない。マンボウをどう入手・保存しようか考えた時、思い付いたのが当館メンバーのヨシモラである。

この時、ヨシモラはちょうど卒業研究でマンボウのサンプルを集め始めた時期だったので、ヨシモラとその担当教員に事情を話して、マンボウが丸ごと入手できたら冷凍でキープしてもらうよう協力を求めた。

いろいろ幸運が重なり、マンボウは無事ヨシモラの方でキープでき、番組のロケができることになった。

番組の方でも一応、ロケ日当日に撮影依頼を出している漁協の方でマンボウが獲れたらそのマンボウを使う予定だったが、そんなに運よくマンボウが獲れるはずもなく、キープしてもらっていたヨシモラのマンボウを使うことになった。

この時初めてテレビのロケ車に乗せてもらい、カンニング竹山氏とも会った。カンニング竹山氏は普通に良い人だった。

番組で撮影を通じて論文を書くためのデータも取れたらいいなと考えていたのだが、どうもそんな時間はなさそうだったので、番組撮影が終わった後で改めてちゃんと実験することにした。番組は言わば予備実験のつもりで挑んだ。

ヨシモラの研究実践も兼ねていたので、軟骨を取り出す解剖等はやってもらった。

実際に軟骨をボール状に削って床に叩き付けてみると、想像以上に弾んで結構ビックリした。

私はスーパーボールのようには跳ねないと考えていた。何でも実際にやってみないとわからないものだなと自分の先入観の愚かさを感じた。

ヨシモラも実際にマンボウの軟骨がスーパーボールのように弾んだのを見て、「自分たちが何をやっているのかはよくわからないが、とにかく成功してよかった」と思ったとのこと。

番組の収録を通じて、実際にマンボウの軟骨ボールが弾むこと、より球形に近い方がよく弾むこと、強く叩き付け過ぎると軟骨ボールにヒビが入ることが明らかとなった。

番組は順調に収録が終わり、スタッフと別れたところで、ようやく研究が始まった。

跳ね返り実験

私は具体的な跳ね返りの数値のデータを取るために簡単な実験を考えていた。実験は小学生でもできるとてもシンプルなものである。

1.百均で買ったスーパーボール(比較用)と同じくらいの大きさになるようにマンボウの軟骨をボール状に削る。

2.1cm単位の線を引いた1mの紙を準備し、地面からちょうど1m離れた位置の壁に貼り付け、ボールの下限を1mの線に合わせて、自然に落下させる。

この時、地面から跳ね返った高さを記録したいので、全体が映る位置にデジカメを固定して、動画を撮影した。この実験を5回繰り返し、その平均値をそのボールの数値として比較に使用した。

マンボウの軟骨ボールとスーパーボールの実際の実験風景(音声無し)。

スーパーボール

マンボウの軟骨ボール

マンボウの軟骨でつくった「軟骨ボール」が跳ね返る様子

私は動画撮影を担当し、ヨシモラはボールを落とす係を担当した。

結果、マンボウの軟骨ボールはスーパーボールと同等とはいかないまでも、スーパーボールの70%の弾性はあることが明らかになった。加えて、人為的に強く叩き付けると、ヨシモラの身長の約1.5倍の高さまで弾ませることができることがわかった。

これらよりマンボウの軟骨ボールは十分にスーパーボールの代わりとして遊ぶことができることがわかった。

後日談

諸々制約があり、実験はこの1個体、この時集めたデータだけで論文を書くことになった。

番組にも事前に論文内容を確認してもらい、ヨシモラとの初めての共著論文は無事出版された。論文はほぼすべて私が書いたが、ヨシモラの協力がなければこの論文はできなかったので感謝である。

論文を書く中で、昔の漁村の子供達がマンボウの軟骨ボールで遊んでいた詳細な地域を知る必要があったため、番組に仲介してもらい、番組に依頼を出した依頼者当人にもコンタクトを取った。

もしこの方が『探偵!ナイトスクープ』に検証依頼を出さなければ、マンボウの軟骨ボールがスーパーボールのように弾むという事実は、人類史から失われていたかもしれない。事実は小説よりも奇なり、である。

私は今まで、テレビは私の既に知っているマンボウ情報しか集まらないと思っていたが、知らない情報が寄せられることもあることを知り意外と侮れないと思った。

その一方で、私たちが論文として出版しなければ、このマンボウの軟骨ボールの民俗は、せっかく発掘されたのに娯楽のネタに使われただけで終わるところだった。

「マンボウ以外の種(ウシマンボウ、ヤリマンボウ、カクレマンボウ、クサビフグ)の軟骨ボールはマンボウと同等の弾性があるのか?」「マンボウの軟骨ボールの大きさを変えたら跳ね返りの高さは変わるのか?」「全力で地面に叩き付けたらどのくらいの高さまで跳ね返るのか?」「軟骨ボールは常温・冷蔵・冷凍保存すると弾性はどうなっていくのか?」などなどマンボウの軟骨ボールはまだまだ実験の余地がある。

個人的には子どもの夏休みの自由研究などでやってくれたら面白いなぁと考えているが・・・多分誰もやらないと思うので、また継続研究をやってみたいと考えている。

論文に使用したマンボウの軟骨ボール

出演記念に頂いた公式ファイル

参考文献

澤井悦郎・吉原もも乃.2020.昔の漁村における子供の遊び文化の再現―マンボウの軟骨から作られたボールの検証.Biostory, 33: 102-107.

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参考文献
  • サイトデザイン一新に伴いリライト(2023年7月28日)
  • 更新履歴の表示方法をアコーディオンボックスの仕様を変更(2021年6月27日)
  • 「跳ね返り実験」にYouTube動画(マンボウの軟骨でつくった「軟骨ボール」が跳ね返る様子)を追加(2020年7月21日)

作成日:2020年7月19日 更新日:2023年7月28日

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