マンボウの分類(形態)

【執筆者 澤井悦郎

「マンボウ」という名前はマンボウ科魚類の総称でもあり、Mola molaの標準和名でもあり、少しややこしい。

一般的に呼ばれるマンボウとはMola mola 1種のことを指しているものと思われるが、一般的なマンボウの知見は複数種が混同されてきた歴史に基づいているので、真のMola molaの知見ではない可能性がある。ここでは単にマンボウと書く場合はマンボウ型魚類の総称を指し、Mola molaのことを指す場合は〝マンボウ〟と区別する。

目次

生物分類について

生物を研究する上で、最も基礎的であり、最も重要なことが「分類」である。ものに名前を付けて区別する行為ができなければ、犬と猫を同種として扱うようなもので、生物学は分類学がなければ成り立たないと言っても過言ではないだろう。

生物分類の基本単位は「種」である。種はいくつか集まって「属」を作り、属はいくつか集まって「科」というグループを作る。亜種など細かい分類単位もあるが、代表的な分類単位は「超界(ドメイン)・界・門・綱・目・科・属・種」である。

分類単位は大きなグループから小さいグループの順に読んでいく。

〝マンボウ〟を上記の分類単位に当てはめると、「真核生物超界動物界脊索動物門条鰭綱フグ目マンボウ科マンボウ属マンボウ」となる(目レベル以上の分類単位の呼び名は研究者によって多少異なる)。

マンボウ類の最大のグループはマンボウ科であり、より大きな視点ではマンボウ科はフグの仲間に入ることがわかるだろう。

種の名前は「学名」で表され、日本だと「標準和名」で表される。

〝マンボウ〟は国や地域によって呼び名が変わる。例えば英語だと〝マンボウ〟はocean sunfishという名前になる。場所によって呼び名が変わるとややこしいため、学名という世界共通の名前が考案された。

〝マンボウ〟の種の学名(種名)はMola molaで、属の学名(属名)はMola、科の学名(科名)はMolidaeである。

種名の横には新種として論文を発表した命名者と命名年が付けられるが、省略されることが多い。ちなみに、命名者と命名年を囲む「かっこ()」には意味があり、かっこがある場合は命名時から属名が変更されたことを示す。

学名は1つの種につき、1つの名前しか付けることができない。種の学名はラテン語(ラテン語化したもの)で表記され、属名と種小名の2語で構成される(動物命名法国際審議会,2005)。この学名の二語名法は日本人の名前の表記と似ており、属が姓、種小名が名で、フルネームを表すと覚えるとわかりやすい。

分類学者はドンドン新種を発表していくが、研究が進んでいく中でその新種が実は既に発表されていた生物と同種だったという事件が起きることがある。

1つの種に複数の学名が付けられた事例が発覚した場合、基本的には先に命名された学名が採用される。このため、生物の学名は絶対的ではなく、研究が進展する中でたまに変更されることがあることを覚えておいて欲しい。

マンボウ科の系統

分類は単に「同じグループに分ける」行為だったが、分けたグループ同士の共通する・異なる形態的特徴を整理して順番に並べることで、他種との系統関係(進化してきた道筋)が理解できるようになる。系統関係が近いということは、現在はそれぞれ別の生物に進化したが、元を辿れば共通の祖先に辿り着くことを示す。

マンボウ科がどんな魚から進化してきたのかは現在もよくわかっていない。しかし、数々の形態調査や遺伝解析によって、マンボウ科はハリセンボン科+フグ科と系統が最も近いことが現在有力と示唆されている(e.g., 澤井,2017)。

一方、マンボウ科内の系統関係に焦点を当てれば、ヤリマンボウ属とマンボウ属は系統が近く、クサビフグ属は両者から遠いことが遺伝的にも形態的にも示唆されている。

マンボウ科の各属内に何種存在するのかは今もハッキリとしていないが、クサビフグ属1種、ヤリマンボウ属1種、マンボウ属3種が現在確実に確認されている。

マンボウ科5種の外観的特徴

マンボウは1種と思っている人が多い。しかし、マンボウ科には現在3属5種が明確に確認されている。特にマンボウ属はNyegaard et al. (2018)とSawai et al. (2018)によって近年、大規模な分類学的再検討が行われ、遺伝的・形態的に3種が含まれることがわかったばかりである。

マンボウ科5種の詳細な形態比較をすると長い表が必要になるため、今回はイラストを描く時に押さえて欲しい外観的特徴(典型的な種の特徴)のポイントを解説する。

クサビフグ Ranzania laevis

舵鰭が右上から左下へとスラッシュ状の斜めの形。胸鰭が細長く、先端が尖る(他の種は胸鰭が丸い)。唇が著しく前方に伸びる。頭部に黒く縁取られた白い筋模様がある。体型は弾丸状。

ヤリマンボウ Masturus lanceolatus

舵鰭中央に後方に延長する突出部がある。下顎が上顎より少し前に突き出る。体型はマンボウ属より卵型。

マンボウ Mola mola

舵鰭縁辺全体が波打つ。

ウシマンボウ Mola alexandrini

頭部がでっぱる。下顎下がでっぱる。舵鰭縁辺が半円形。

カクレマンボウ Mola tecta(日本近海では未確認)

舵鰭縁辺の中央部が1ヵ所だけ凹む。舵鰭基部にある帯から舵鰭縁辺の凹みに向かって帯(後延帯smooth band back-fold)が伸びる。眼の上が隆起する。

マンボウ科の分類形質は他にも、舵鰭鰭条数、骨板数、鱗の形状などがある。より詳しい形態が知りたい方は、一般向けに書いた澤井(2017)や澤井(2019)を読んで欲しい。

参考文献

動物命名法国際審議会.2005. 国際動物命名規約 第4版  日本語版〔追補〕.日本分類学会連合,東京,XVIII + 135 pp.

澤井悦郎.2017.『マンボウのひみつ』.岩波書店.東京,208pp.

澤井悦郎.2019.『マンボウは上を向いてねむるのか: マンボウ博士の水族館レポート』.ポプラ社.東京,207pp.

Sawai E, Yamanoue Y, Nyegaard M, Sakai Y. 2018. Redescription of the bump-head sunfish Mola alexandrini (Ranzani 1839), senior synonym of Mola ramsayi (Giglioli 1883), with designation of a neotype for Mola mola (Linnaeus 1758) (Tetraodontiformes: Molidae). Ichthyological Research, 65:142-160.

Nyegaard M, Sawai E, Gemmell N, Gillum J, Loneragan NR, Yamanoue Y, Stewart A. 2018. Hiding in broad daylight: molecular and morphological data reveal a new ocean sunfish species (Tetraodontiformes: Molidae) that has eluded recognition. Zoological Journal of the Linnean Society, 182: 631-658.

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更新履歴
  • 更新履歴の表示方法をアコーディオンボックスの仕様を変更(2024年8月31日)
  • 関連記事にLab BLAINSに寄稿したマンボウの形態に関する記事を追加(2022年11月29日)

作成日:2020年7月18日 更新日:2024年8月31日

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